◆掘り出されたフィギュア ― 日本とバルカン地方の先史の造形 ―

2010年2月24日(水)、東京縄文塾を朝日新聞東京本社本館2階の読者ホールで開催した。テーマは「縄文の色と造形」。講師は東京大学教授の辻誠一郎氏とセインズベリー日本藝術研究所副所長のサイモン・ケイナー氏が務めた。下記はサイモン・ケイナー氏の講演内容の一部。

 

シャコマン

 

イギリスで高まる縄文土偶への注目

 

 イギリスでは今、「土偶フィーバー」が起こっています。例えば、去年の9月~11月、大英博物館で ”THE POWER OF DOGU” という展覧会が開催され、日本から67点の縄文土偶が紹介されましたが、その際会場には8万人くらいの人が訪れました。

 また、今の大英博物館の館長は二ール・マグレガーさんという方で、この方は3週間くらい前から月曜日から金曜日までの毎日、一日3回、15分くらいのラジオ番組に出演しています。番組のタイトルは ”A HISTORY OF THE WORLD  IN A 100 OBJECTS ” で、大英博物館のコレクションから100作品を紹介し、新しい世界史を構築していこうという内容です。その第10番目に紹介されたのが、日本の縄文土器でした。大勢の人がその番組を聞いていたので、「縄文」と「土偶」という言葉がイギリスで、ずいぶん知られてきています。

 

ヨーロッパのフィギュアと日本の土偶

 

 ヨーロッパで今まで見つかった中で一番古い土製のフュギュアは、チェコのドルニ・ヴェストニッツェという遺跡から見つかった27000年くらい前の小さな破片です。でもそれ以外は見つかっておらず、ヨーロッパでフィギュアが本格的に作られるようになったのは、8500年~4500年前の新石器時代のバルカン半島でのこととされています。

 日本の土偶の歴史はもっと古く、16000~2500年前の縄文時代につくられていました。青森県の大平山元Ⅰ遺跡からは、15000~16000年くらい前の土器片が見つかっています。ところが、ヨーロッパの考古学者は、そのことが全く信じられないといいます。というのもヨーロッパでは、土偶の使用は農耕の時代になってからと考えられているからです。でも最近では、ともに定住生活が営まれていた時期にこうした製品がつくられていたという類似点に注目するほうが重要じゃないか、という考え方もされるようになってきてきています。

 

日本とバルカン地方の比較展

 

 セインズベリー日本藝術研究所とセインズベリー視覚芸術センターに所属する専門家チームによる展覧会プロジェクトでは、もともと2つの展覧会を開催しようと考えていました。1つが昨年秋、大英博物館で開催された「土偶の力:先史日本の造形(THE Power of  Dogu)」、そしてもう1つが今年の6月22日~8月29日にかけてイギリスの東部のノーリッジ市、イースト・アングリア大学のセインズベリー視覚芸術センターで開催される、「掘り出されたフィギュア:日本とバルカン地方の先史の造形(Unearthed)」です。今年の展覧会では、日本の土偶とバルカン半島のフィギュアの比較展を行います。

 セインズベリー視覚芸術センターが有する「セインズベリー・コレクション」には、ロバート・セインズベリー卿とリサ・セインズベリー夫人が1930年代から今まで収集してきた、300以上の美術芸術作品が含まれています。そしてその中には、セインズベリー夫人が集めた縄文時代の土偶もあります。恐らく日本国外のコレクションでは、セインズベリー視覚芸術センターの土偶コレクションが最も優れていると思います。

 

展覧会 ”Unearthed” の主な内容

 

 これまで、東ヨーロッパに位置するドナウ川の周辺の国々、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、ギリシャの4つの国の研究はされてきましたが、マケドニアやアルバニアなど、旧ユーゴスラヴィアの国々には、研究者が立ち入ることができませんでした。でも紛争が終わった10年ほど前から、大学の考古学者がこれらの地域でも調査を行えるようになりました。夏の展覧会では、初めてアルバニアから出土した土偶を展示します。

 それから、イギリスには日本の漫画やアニメに興味を持っている人がたくさんいます。これ(図参照)は「シャコマン」というキャラクターなんですけれども、土偶をこうして取り上げると、考古学をあまり知らない人達にももう少し興味を持ってもらえるかと思います。

 昨年の ” The Power of Dogu ” と同時期には、大英博物館の玄関の左側の朝日新聞ディスプレーという展示室に漫画喫茶を作り、そこに北海道の漫画家、星野之宣さんの考古学漫画、「宗像教授伝奇考」を展示しました。さらに、星野さんは会期中ロンドンに来て、大英博物館の中にいろんな絵を描いたので、それらも全部その展示室の中に展示しました。そうすると来た人は、みんなすごく土偶にも興味を持って見ていました。今年の展覧会でも、こうしたあたらいい展示方法を取り入れていきたいと思っています。

(縄文ファイル No.176号より一部抜粋)